NHK「総合診療医ドクターG」【なぜか食べられない!食欲あるのに…
嫉妬が原因!?患者も気づかぬ病魔の正体とは?】
◎ドクターG:金城光代(沖縄県立中部病院医師)
◎書記:長嶺由衣子医師
◎研修医(医師免許を取得して臨床研修を行なっている医師):
・左信哲(大阪府・りんくう総合医療センター)
・堀智音(愛知県・トヨタ記念病院)
・水戸正人(新潟県・新潟大学医歯学総合病院)
第11回 患者の訴え「なぜか食べられない」
■今回の患者…吉田光雄さん(62歳男性、無職※元高校教師)
※身長168cm、体重70kg
【基礎データ】体温37.5度、血圧154/77、脈拍109回/分
【主訴】なぜか食べられない
患者は、小説家デビューをめざす元高校教師の男性(62歳)。
定年退職後、部屋にこもって執筆を続けている。もともと大食漢で妻の作る料理を
ガツガツ食べていた。ところが、最近、食が進まなくなってきて…食欲はあるのに
食べられない。実は高校の教え子の女性がある出版社の文学賞を取り、先を越されて
しまったのだ。食べられなくなったのは精神的ショックからか?ドクターGは患者が
意識していないある症状から病気を診断した!
【診断】感染性心内膜炎
患者の吉田光雄さんは1か月前にすぐ満腹になる食欲不振を訴え、20日前から
徐々に食欲が低下したという。食欲はあるがすぐに満腹になるという状態は、
腸管が詰まっている可能性がある。しかし消化管に問題があれば下痢や便秘などの
症状があるはずだが、吉田さんは下痢・便秘・腹痛の症状を訴えていない。
お腹が張るという症状は、腹水か臓器による腫れの可能性が高い。
吉田さんには息苦しさが見受けられたが、寝ると全身から返ってくる血液量が増えるため、
心臓や肺がうっ血し息苦しさを引き起こしている可能性が高い。息苦しさは心不全の症状とも
考えられ、心不全の原因は心筋炎や貧血が該当する。
発熱し心不全になる病気としては、心筋炎や感染性心内膜炎が濃厚だが、
吉田さんは人差し指に痛みを覚えており、感染性心内膜炎の可能性が高く、
発症したオスラー結節は感染性心内膜炎の症状で、菌に免疫が反応し
できる痛みのある結節をいう。
感染性心内膜炎であれば心不全と発熱の説明はつくが、脾臓の腫れに
結びつけるのは難しい。しかし脾臓が菌を処理するため活発に働き腫れることが
あるため、最終診断は感染性心内膜炎となった。
吉田さんが感染性心内膜炎を発症する原因となった緑色連鎖球菌のゲメラは、
口の中や消化管に常在する弱い菌で、まれに心臓の弁につきゆっくり繁殖するが、
吉田さんの心臓の弁には菌の塊が付着し、心不全を起こしていた。
吉田さんは抗菌薬の投与と心臓弁を治す手術を受けて回復した。